Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

      “まだまだお寒うございますが…”
 


一年のうち一番昼が短い日である“冬至”を過ぎたら、
だんだんと昼が長くなる…のではあるけれど。
実を言うと、
立春を過ぎるころまでは、夜明けはますますのこと遅くなる。
勿論のこと、夜が長くはならないので、
陽が暮れる時間帯が遅くなり、
日が長くなってくだけのことなのだが。
冬至の後といやぁ、冬も本番、
もっとも冷え込むそれはそれは寒い頃合い。
しかも、その日の最低気温を記録するのは、
明け方の陽が上るのとほぼ同時。

 「ああ、あれだろ。放射冷却。」
 「ぴんぽ〜ん♪」

ということから、
いくら何でももう起き出さにゃあという頃合いに、
最も寒い間合いが重なるという、
それはそれは厄介なことになるワケで。
珍しく早起きしたはいいけれど、
もう6時になるってのに真っ暗ってどういうこと?なんて、
びっくりしちゃった受験生の人とかいませんか?
ここからがまたひと踏ん張り、
きっちり防寒の装備をしてってくださいませね。

 「そういやさ、
  何とか流星群とかいうのって、
  秋から年末にかけてなんだよな。」

不意にそんな突拍子もないことを言い出したのは、
染めたそれじゃあない、生まれつきの金髪を、
ツンツンに跳ねさせた髪形も、今の時点じゃあ可愛らしい、
賊大アメフト部をこの小ささで牛耳る、小学生の鬼軍曹殿。
そんな髪のきららかさが夜陰をバックにいや映えるほど、
すっかりと陽も落ちている宵の口であり。
明々と照明が灯り、暖房も利いていたコンビニから出た途端、
ひょうぅっと冷たい風が吹きつけて来て。
ボアのついたフードつきのダウンジャケットの襟元へ
白い頬を埋めるようにして、
おお寒いと首をすくめたそのまんま、
唐突なことを言い出した坊やだったので、

 「何だ、薮から棒に。」

こちらさんも首をすくめつつ、
雄々しい肢体にはそりゃあお似合いな、
シャープなデザインのライダーズジャケットのポケットから、
バイクのキーを掴み出してた総長さんが、
一応はそんな風に訊き返したものの。
上背のある自分と並ぶと尚更に、
背丈の小さな小さなトウガラシ坊やのお顔が、
小さな顎をのけ反らせ、ひょいと上を向いていたものだから。
その視線が向いてた方を点々々と辿れば、
そこに答えのヒントもあるというもの。
今宵の月は、
よほどに目がよくなければ
見づらいかもしれないほど細い細い三日月で。
その周辺には明けの明星だろう金星がちかりと光っており。

 “そういやぁ…。”

いつだったか、やはりすっかりと暮れてしまった帰り道、

 『俺、オリオン座ならすぐに探せるな。』

冬って暗くなんの早いしサ、
あれは真ん中の3つ星が独特だから…とか何とか
言ってたようなと思い出す。
ずば抜けたPC操作の術や、
独自に変わった仕掛けを組み上げてしまえる
理工学方面での頭のよさを持ちながら、
星座なんていう
ちょいとロマンチックなものへの造詣も深いだなんて。

 “今から袖斗が多すぎやしませんかっての。”

下手に何でも出来る奴が陥りやすい罠、
結果として、どれも大してモノに出来ないような、
いわゆる“器用貧乏”に終わらなきゃいいがなと。
まるで親御のようなことを案じてやりつつも、

 「なんだ、ああいうのが観たかったのか?」

その手の観測は、
成程 夏場よりは空が暗くなるのが早いので、
秋や冬こそ向いているのだろうけど。
真夜中遅くまで起きていると、
どうしたって翌日の生活へ響くもの。
まだまだ若いどころか幼い身の坊やなら、
ただ寝ぼけてしまうだけなのだからと、
あんまり薦められることではないながら、
一晩くらいはそういうことに挑戦してもいいかもしれないが、

 「………そんな呑気なこと、出来るわけねぇだろが。」

秋といやぁ、高校生なら選手権が、
大学でも本格的なリーグ戦も始まっての、
日々トレーニングや調整にと集中せねばならぬ時期。
1日だって無駄には出来ずで、
のんびりと星空見上げて夜更かしだなんて、

 「やってられっか、そんな ゆーちょーなこと。」
 「だよなぁ。」

一丁前に腕組みをし、
憤然として見せる坊やだが、
珍しいことに平仮名だったのが、
何とも可愛いなぁと、こそりと思った葉柱だったりし。
本当に本心からの“心外だ”発言なものか。

 “だったら、そもそも話を振るかなぁ。”

残念だとまでは思っちゃあないものの、
そういうものさえ置き去りにして来たんだなぁなんていう
仄かな感慨だけは沸いちゃった彼なのかも知れず。
アメフト一辺倒、集中している日々も大切だけれど。
世間一般の人々が普通に沸いてた話題、
それへ付き合えなかったのも、多少はあのその…というところか。

  “それと、もう一つ…。”

走行風に冷えたのでと、ちょっと寄り道したコンビニ。
あとは家まで送ってくだけの道程で。

 「風邪でも引いたら元も子もねぇしな。」
 「まったくだっ。」

バイクのシートへ収納していたヘルメット。
おうさと受け取りながら、わざとらしくも憤然とするお顔を、
苦笑混じりに見やりつつ、

 「流れ星といやぁ、願い事が叶うとか言わねぇか?」

冗談めかして付け足した葉柱だったのへ、

 「………。」

ちょみっと、小さな肩が反応して見えたのは、
ちょうど目の前の大通りを通過してった車の
ヘッドライトの移動のせいか?

 「そんなしょーもない他力本願、
  俺が喜んでやらかすと思うのか?」

馬鹿馬鹿しいとかどうとかと、
続けたそうなお顔になった鬼軍曹さん。
ほら、早く帰ろうぜと、
さっさとバイクへまたがってしまったのへ、

 “可愛いじゃねぇか。”

一昔前なら、
素直じゃないお返事へ“可愛くねぇ”と思ったところ。
だがだが、そこはこちらにも蓄積がある総長さんだから。
素直なことは言えないながら、
態度には隠し切れない何かがちらり。
それを拾ったものの、
だがだが、それこそ内緒にしておかにゃあなと。
こそりと苦笑をこぼした葉柱。
それじゃあおウチへ帰りましょうかと、
冷たい夜風への対抗策、
ふっかふかなボアつきのイアー・マフを坊やに装着させ、
再びバイクを駆けさせる。
それはさながら、
地上を駆ける流れ星にも似た、
爽快に冴えた、一直線の疾走だった。



     〜Fine〜  13.01.12.


  *まだまだ寒いですねぇ。
   これから本番だという方々、どうか体調管理に気をつけて。

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